医療事件

頚椎症性脊髄症に対する椎弓形成術を受けた後に視力及び視野機能が低下した事案

kentaro

東京地方裁判所令和5年3月23日判決(医療判例解説vol.109,2024年4月号)

頚椎症性脊髄症に対する椎弓形成術を受けた後に視力及び視野機能が低下した事案

裁判の争点
①視力及び視野機能の低下の原因
②術後合併症予防義務違反の有無
③術後合併症予防義務違反と視力及び視野機能の低下との因果関係
④説明義務違反の有無
⑤損害

①について
麻酔科鑑定人3人、眼科鑑定人3人が「全員一致で、原告の視力及び視野機能の低下は、本件手術によって眼窩内圧が上昇し、視神経等への血流が低下したことによって生じた旨の意見を述べた。」
裁判所の当該鑑定結果に基づき原因を認定し、被告の他原因の主張を排斥しています。

②について
術後合併症予防義務があったこと自体に争いはなく、義務を怠ったか否かが争われています。
裁判所は「被告医師らが原告の顔面に本件マスクを装着させて原告の顔面ないし眼球を保護していたこと及び本件手術中に手鏡を使用するなどして原告の眼部の状態を確認していたことを裏付ける証拠は全くない。」と述べるなどして、注意義務違反があったことを認めています。

③について
「文献によれば、視神経等の虚血による視力及び視野機能の低下は、本件手術の合併症ではあるものの、一般的に術後合併症予防措置を講じることで発症を予防することができるとされている。また、麻酔科鑑定人ら及び眼科鑑定人らも、術後合併症予防措置を講じることで、虚血性変化が生じるリスクを減らすことができた旨の意見を述べている(鑑定の結果)。さらに、原告に術後合併症を発症するリスクファクターはなかった(弁論の全趣旨)。」として因果関係を認めている。

④説明義務違反については、術後合併症予防義務違反及び因果関係が認められたため個別に判断はされていない。

本件は、東京地裁で行われていることから、カンファレンス鑑定が行われて、その鑑定結果が原告の主張に沿った内容であったと考えられる。
当該鑑定結果が、①の結果発生に至る医学的機序、③の因果関係の判断で重視されているように思われる。
②の注意義務違反は、被告が主張する合併症予防措置を裏付ける証拠がないとして、事実認定のレベルで判断している。

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平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟9件を担当しています。
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