医療訴訟・医療紛争の現状と課題 その5
法律のひろば2023年3月号「医療訴訟・医療紛争の現場と課題」のうち、「消費者被害型医療紛争」(三枝恵真弁護士)について
主に美容医療分野に関する医療紛争について、内科・外科といった医療分野との違いが整理されています。
東京の特色として「東京地裁医療集中部は全国に比して形成外科(含美容)、歯科の割合が多いとされ」ているようです。
その理由として医療機関が東京及びその近郊に偏在していることが指摘されています。
美容外科事件の特色として、以下のことが述べられています。
- 緊急性・必要性が乏しく、身体侵襲の正当化要件として患者の同意が重要となること
- 患者の主観的願望を満たすことを目的としていること
- 自由診療であるため、診療費が高額になりやすい
- 診療契約の法的性質が請負に近いと言える。
これらの特色を前提に、注意義務に関しては
「学説や裁判例において、医師の注意義務の程度が他の医療行為より高度化されると指摘するものも多い」とされています。
その他にも法律構成時に考慮すべきこととして
「美容医療契約が患者の主観的願望の実現を目的とする以上、責任論においても患者の主観的願望を取り込んだ主張をしていくことが望ましい」
「近時の裁判例では、使用する製品や施術内容について患者の具体的要望があった場合には、診療契約の内容となり、合意違反の医療行為は義務違反を認定した例も散見される。」
「従来の「医療水準」論は、ガイドラインが十分に整備されておらず、クリニックごとに多様な術式が存在し、患者の主観的願望に応じた個別的施術が実施される美容医療においては、使いにくい。」
といったことが挙げられている。
美容医療事件は、私も感じていますが、過失と因果関係の主張も容易ではないですが、比較的損害額が少額にとどまる事例も多く、ご本人の負担の観点からも受任してよいか悩むことがあります。
解決・相談の機関として、以下が紹介されています。
- 消費生活センターへの相談、あっせん
- 国民生活センターADR
- 医療ADR
このように同じ医療紛争であっても、美容医療における法的構成や課題など多くの特徴があります。
特に初めて美容医療分野を扱う場合には、この論稿を確認して、引用されている論文などを読んで依頼事件を進める必要があると思います。