治療行為の中止と安楽死
横浜地方裁判所平成7年3月28日判決(医事法判例百選第3版192頁)
被告人である医師の行為について、殺人罪の成否が争われた刑事事件の中で「治療行為の中止の要件」と「安楽死の要件」について言及があります。
1.治療行為の中止の要件
「意味のない治療を打ち切って人間としての尊厳性を保って自然な死を迎えたいという、患者の自己決定権を尊重すべきであるとの患者の自己決定権の理論と、そうした意味のない治療行為までを行うことはもはや義務ではないとの医師の治療義務の限界を根拠に、一定の要件の下に許容される」とした上で、以下の要件を述べています。
①患者が治療不可能な病気に冒され、回復の見込みがなく死が避けられない末期状態であること
②治療行為の中止を求める患者の意思表示が存在し、それは治療行為の中止を行う時点で存在すること
③患者の明確な意思表示が存在しないときには、患者の推定的意思によること
2.安楽死の要件
まず、安楽死を消極的安楽死・間接的安楽死・積極的安楽死の3つに分類しています。
消極的安楽死=苦しむのを長引かせないため、延命治療を中止して死期を早める不作為型
⇒治療行為の中止としてその許容性を考えれば足りる
間接的安楽死=苦痛を除去・緩和するための措置を取るが、それが同時に死を早める可能性がある治療型
①主目的が苦痛の除去・緩和にある医学的適正性をもった治療行為の範囲内の行為とみなし得ること
②たとえ生命の短縮の危険があったとしても苦痛の除去を選択するという患者の自己決定権を根拠に許容される
積極的安楽死=苦痛から免れさせるため意図的積極的に死を招く措置
根拠:緊急避難の法理と自己決定権の理論
①患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること
②患者は死が避けられず、その死期が迫っていること
③患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと
④生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること
結論としては、「可罰的違法性ないし実質的違法性あるいは有責性が欠けるということはない」と判断されています。