医療事件

画像から異常所見・病変を見落としたことが争われた事例

kentaro

横浜地方裁判所令和5年6月8日判決(医療判例解説2023.12月号)

CT画像で異常が存在したのにこれを見落とし、また、背部痛を訴えていたのに腰部のMRI撮影を指示した過失があるとして、両下肢完全麻痺・自力歩行ができないという後遺障害に関して損害賠償を求めた事例

争点

  1.  被告A医師において、平成27年12月18日の本件CT検査の画像から異常所見を見落とした注意義務違反が認められるか
  2.  被告B医師において、本件CT検査で撮影されたCT画像から異常所見を見落とした注意義務違反が認められるか
  3.  被告A医師又は被告B医師に過失が認められた場合の因果関係の有無
  4.  C医師において、12月28日のMRI検査に関し、撮影部位の指示について注意義務違反が認められるか
  5.  C医師において、12月28日のMRI検査の画像から病変を見落とした注意義務違反が認められるか
  6.  C医師において、12月28日のMRI検査の結果について読影医にその結果を確認しなかったか、その他の検査を実施しなかった注意義務違反が認められるか
  7.  C医師において、平成28年1月4日、原告の訴え等を踏まえて、腰椎椎間板ヘルニア以外の疾患を疑い速やかに適切な検査を実施しなかった注意義務違反が認められるか
  8.  C医師において、平成28年1月6日、同日までに作成されたMRI検査報告書等を踏まえて、腰椎椎間板ヘルニア以外の疾患を疑い速やかに適切な検査を実施しなかった注意義務違反が認められるか
  9.  C医師において、平成28年1月7日、同日までの原告の症状の経過等を踏まえて、腰椎椎間板ヘルニア以外の疾患を疑い速やかに適切な検査を実施しなかった注意義務違反が認められるか
  10.  C医師に過失が認められた場合の因果関係の有無
  11.  原告らの損害

被告A医師および被告B医師との関係では、①の注意義務違反は認めず、②の注意義務違反がを認めたものの、③の因果関係を否定し、結論として被告A医師および被告B医師の責任はないと判断した。

C医師との関係では、④の注意義務違反は認めず、⑤の注意義務違反を認め、⑥から⑨の注意義務違反については「より早期の時点における過失を主位的に主張しているものと解され、上記のとおりC医師に過失が認められる以上、その余の争点については判断を要しない。」と判断している。
⑩の因果関係については、「後遺障害が残存しなかったという高度の蓋然性は認められない。」(因果関係否定)と判断した上で、「後遺障害が残存しなかったことの相当程度の可能性は認められる。」と判断している。

⑪の損害については、⑩の因果関係において相当程度の可能性を認めている関係上、慰謝料のみ認められている(なお、後遺障害等級に基づく慰謝料ではない)。

【コメント】
患者側代理人としては、どの時点の注意義務違反(過失、ミス)が認められるかわからないため、複数の時点の注意義務違反を主張することがあります。
もっとも、時点が早くなればなるほど後遺障害や死亡といった結果が避けられた可能性が高いという結論に、時点が遅くなればなるほど結果は避けられなかったという結論になることが多いです。
また、本件のように、被告B医師の②の注意義務違反は認められていますが、結果との関係がないとして責任が否定されるといったように、ミスは認められたが法律上の責任はないと判断されることも多くあります。

ABOUT ME
平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟9件を担当しています。
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