刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しについて文書の提出を命ずることはできるか
最高裁平成31年1月22日第三小法廷判決(ジュリストNO.1589‐115頁)
事案の概要
違法な捜査により逮捕されたなどと主張して大阪府に対し国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める訴訟で、事件の捜査に関する報告書等について民訴法220条1号ないし3号に基づき、文書提出命令を申し立てた事案
判旨
民事訴訟の当事者が,民訴法220条1号の規定に基づき,上記「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても,引用されたことにより当該文書自体が公開されないことによって保護される利益の全てが当然に放棄されたものとはいえないから,上記と同様に解すべきであり,当該文書が引用文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが,上記の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である。
刑事事件の捜査に関して作成された書類の写しで,それ自体もその原本も公判に提出されなかったものを,その捜査を担当した都道府県警察を置く都道府県が所持し,当該写しについて引用文書又は法律関係文書に該当するとして文書提出命令の申立てがされた場合においては,当該原本を検察官が保管しているときであっても,当該写しが引用文書又は法律関係文書に該当し,かつ,当該都道府県が当該写しの提出を拒否したことが,前記イの諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該写しの提出を命ずることができるものと解するのが相当である。
解説(前最高裁判所調査官 小川卓逸)
最高裁平成16年5月25日大三小法廷決定を参照し、引用文書の場合についても法律関係文書の場合と同様に解すべきであるとして、同様の判断枠組みを用いている。
刑訴法47条は、保管者に同条ただし書該当性の判断を委ねる枠組みを採用している以上、保管者によって判断が異なり得ることは当然予定しており、検察官が原本を保管する場合であっても、都道府県が写しを所持する場合、都道府県の合理的な裁量に委ねられている。
関連条文
刑事訴訟法47条
訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。
民事訴訟法220条1号
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
1号 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
3号 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。