脳梗塞が疑われた患者へのMRI検査を怠ったが因果関係は否定され自己決定権侵害のみ認められた事案
右側頭部痛、左上肢痺れ、左視野異常を訴え救急搬送された際、CT検査で出血や広範な脳梗塞は確認されず、翌日にMRI検査をしたら右後大脳動脈領域に急性期脳梗塞が確認されたが、左上4分の1視野欠損が残存した事案
(東京高裁令和7年6月17日判決、医療判例解説118号79頁)
【争点】
- MRI検査義務又は神経内科医への相談義務の有無
- 説明義務の有無
【判旨+メモ】
原審では以下のとおり、注意義務違反・説明義務違反を認めたが、自己決定権侵害のみ認め、慰謝料を50万円と判断している。
脳梗塞の鑑別をするためにMRI検査を実施すべき注意義務及び神経内科医への相談をすべき注意義務を負っていたというべきである。
(中略)
A研修医らは、遅くとも上記時点までに、脳梗塞の鑑別をするためにMRI検査を実施するとともに、その結果を踏まえて、速やかに、原告に対し、右後大脳動脈の閉塞ないし狭窄が生じていること及びこの状態が維持されると脳梗塞に至る可能性があることを説明した上で、脳梗塞の発症を予防するための治療の選択肢及びその内容と利害得失を説明し、当該治療を受けるか否かを自己決定する機会を与えるべき義務を負っていたというべきである。
高裁では、原審で注意義務違反を認めた①②が争点となり、判断されている。
A研修医らは、本件CT検査を行ったものの確定診断には至っていないのであるから、速やかにその適否の鑑別のためMRI検査を実施すべきであった。
(中略)
もっとも、かかる対応が求められるとしても、そのことは特段、救急搬送された全患者に対してそれぞれの患者の症状を捨象してMRI検査義務を課するものではなく、当直の放射線技師がいたという理由だけで行ったとの理由のみで、被控訴人に対してMRI検査を行うことを求めているものでもない。
(中略)
そもそも医師ないし病院に求められるのは救命活動に限られたものではなく、疾病や侵害の増悪を防ぎ、可及的に健常な状態に復せしめることも求められているというべきところ
救急搬送された患者に対して、脳梗塞を疑ってどこまでの検査が実施されるべきか争われており、同様の相談もあることから、今後も参考になると考えられる。
また、病院側の反論があったからではあるが、全患者に同様の検査や治療を義務付けるものではなく、当然ながら患者ごとの症状等を踏まえて検討すべきことである。
