医療訴訟・医療紛争の現状と課題 その5
kentaro
弁護士平井健太郎のブログ
最高裁平成13年11月27日(医事法判例百選第3版、64頁)
乳癌の乳房温存療法の適応にあり、それを患者が希望していたにもかかわらず、医師が乳房温存療法について十分な説明をせず、意思に反して手術を行ったとして、損害賠償を求めた事案
判旨
原則論
「一般的にいうならば、実施予定の療法(術式)は医療水準として確立したものであるが、他の療法(術式)が医療水準として未確立のものである場合には、医師は後者について常に説明義務を負うと解することはできない。」
例外論
「少なくとも、当該療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては、患者が当該療法(術式)の適応である可能性があり、かつ、患者が当該療法(術式)の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては、たとえ医師自身が当該療法(術式)について消極的な評価をしており、自らはそれを実施する意思を有していないときであっても、なお、患者に対して、医師の知っている範囲で当該療法(術式)の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、当該療法(術式)を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある。」
本件は、未確立療法に関する説明義務の程度が問題となったものであり、確立した複数の療法であれば考え方が変わってくると思われます。