医療事件

画像所見などから絞扼性イレウスの発症を疑えたかどうかが争われた事例

kentaro

腹痛等を訴えて入院した患児が入院中に絞扼性イレウスに伴う多臓器不全により死亡したことについて、絞扼性イレウスであると診断し又は少なくともこれを疑った上で速やかに開腹手術を行う義務が争われた事案
(東京地裁平成26年3月20日判決)

【争点】

  1. 本件患児が被告病院に搬送された時点において開腹手術を行わなかった過失の有無
  2. 造影CT検査等の必要な検査を実施しなかった過失の有無
  3. 緊急開腹手術を行わなかった過失の有無
  4. 重点管理,集中管理を行わなかった過失の有無
  5. 損害

【判旨+メモ】

本件では司法解剖が行われ、その結果は以下のとおりであった。

解剖の結果,十二指腸肛門側110cmの部位から回盲部口側8cmの部位までの小腸が小腸係蹄によって強固に絞扼していることなどの所見が確認され,死体検案書の「(ア) 直接死因」欄には「多臓器不全」,その「発症から死亡までの期間」欄には「約3時間」と,「(イ) (ア)の原因」欄には「絞扼性イレウス」,その「発症から死亡までの期間」欄には「6時間推定」と,「(ウ) (イ)の原因」欄には「小腸閉塞」,その「発症から死亡までの期間」欄には「2日推定」との各記載がされた。

患者側は、「本件患児は被告病院に搬送された時点で絞扼性イレウスに罹患している可能性が高く,その可能性を完全に排斥し得る特段の事情がない限り,速やかに開腹手術を行うべき義務があったと主張」し、その根拠として画像所見の主張をしていた。

 そうすると,本件CT画像上,典型的なワールサインがあるとまでは認められないが,少なくとも,小腸軸捻転を疑わせる所見があるものと認めることができる。
 イ もっとも,CT画像上ワールサインが認められても実際に小腸の捻転が存在するとは限らない上,絞扼性イレウスとは,血流障害を伴う腸閉塞をいうところ,小腸の捻転が認められたとしても,血流障害を疑わせる小腸壁の肥厚や造影CT検査における造影効果の低下等が認められない場合には,絞扼性イレウスの発症を直ちに疑うべきとまではいえない(甲B8,乙A17,乙B1,B6,証人G)。そして,被告病院のE医師においては,本件CT画像について,腸管壁の肥厚や造影効果の低下等の血流障害を疑わせる所見を認めておらず,武蔵野日赤のD医師も,本件当時,本件CT画像上,血流障害を疑わせる所見は認められないと判断したことは前記認定のとおりであり,上記の医学的知見に照らすと,これらの判断が不適切なものであったことはうかがわれないから,本件CT画像上,絞扼性イレウスを発症していることを直ちに疑うべきであったということはできない。

腸閉塞・イレウス事案では、画像所見の有無、典型的な所見の有無が問題になることが多い。典型的な画像所見は、様々さ医学文献に記載がある。
代理人としては、典型的な画像所見も確認しつつ、その他の所見についても確認することになる。

本件では、小腸軸捻転を疑うことはできるが、絞扼性イレウス発症を疑うべきとは認められなかった。
開腹手術との関係では血流障害を疑わせる所見を重視している。

患者側は、上記とは別の時点の開腹手術義務も争っていた。

 しかしながら,12月5日午前1時頃までの間に,本件患児に持続的な強い腹痛や腹膜刺激症状が出現したり,その他本件患児の臨床症状が格別悪化したりしたような事情はうかがわれない。そして,同日午前1時頃の本件患児の心拍数は200回台/分と頻脈の状態であり,SpO2も89%~92%と若干低い状態であったが,本件患児がイレウス管を挿入されていてその負担がかかる状態であったことや病室を移動して環境が変わった直後であったことの影響等も考えられる状況であり(証人G),このような所見のみをもって,本件患児がショック状態に陥っていたと認めることは困難である。また,この時点において,本件患児は,体動が激しく,左右に転がり,起きたり立ち上がったりを繰り返していたが,意思疎通ができる状態にあったから,本件患児がせん妄の状態にあったと認めることもできない。なお,イレウス管の挿入の際に投与された鎮静剤の影響によって腹部の症状が抑えられていたという事情は特段認め難い。
 そうすると,12月5日午前1時頃の時点においても,本件患児が絞扼性イレウスを発症していたことを積極的に疑うべき状況にあったとはいえない。

(中略)

 もっとも,本件患児が絞扼性イレウスを発症した時期(腸管の血流障害が完成した時期)については,司法解剖の結果,遅くとも,本件患児が死亡した12月5日午前5時10分から6時間程前である同月4日午後11時頃までには完成していたとの推察がされているところであり(甲A21,B11),後方視的には,本件患児が上記の12月5日午前1時頃の時点において絞扼性イレウスを発症していた可能性を否定することはできない。しかし,上記のとおり,同日午前1時頃の時点において絞扼性イレウスを積極的に疑わせる事情は認められなかったのであるから,仮にこの時点において実際には絞扼性イレウスを発症していたとしても,上記判断は左右されない。

絞扼性イレウスを発症した時点を司法解剖の結果に基づき後方視的に認定している。
発症時点より後の時点での開腹義務が争われているが、絞扼性イレウスを疑うべき状況でなかったと判断され、過失はないとされている。

絞扼性イレウスが実際に発症した時点より後の過失を問題にしても、過失が認められないことがある例である。

ABOUT ME
平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟6件(高裁1件、地裁5件)、示談交渉中・調査中の事件は10件以上を担当しています。
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