医療事件

智歯の抜歯手術で舌神経を損傷したか?

kentaro

智歯の抜歯手術を受けて舌神経を損傷し後遺障害が残ったとして損害賠償を求めた事案(大阪地裁令和6年3月13日判決、医療判例解説117号2頁)

【争点】

  1. 医師が本件抜歯手術時に原告の舌神経を損傷したか
  2. 本件抜歯手術時に手技上の注意義務違反が認められるか
  3. 被告病院口腔外科再受診時に外科的神経修復術を手掛けている他の病院を紹介しなかった注意義務違反は認められるか
  4. 舌神経損傷とうつ病等との因果関係
  5. 損害及びその額
  6. 消滅時効の抗弁

【判旨+メモ】

抜歯手術の際に舌神経に自然治癒しないような不可逆性の重大な損傷が生じた場合、麻酔の効果が消失した直後から、舌のしびれなどの感覚異常が生じると認められる。ところが、前期前提事実のとおり、原告は、平成13年1月9日に本件抜歯手術を受けた後、当初は舌のしびれなどの感覚異常を感じておらず(前記前提事実(2)ウ)、抜歯後5日目頃から舌尖部にしびれなどの違和感があると申告したこと(前記前提事実(2)エ、オ)が認められる。

上記のように、舌神経損傷に関する一般的医学的知見を認定し、それと本件具体的事実が整合するかどうかを判断している。他の知見との整合性も検討したうえで、「本件抜歯手術の際に原告の舌神経を損傷したと認めるに足りないというべきである。」と判示している。

そして、抜歯手術の際に舌神経を損傷した事実が認められなかったため、当該事実を前提として主張していた手技上の注意義務違反も認められていない。
つまり、手技上の注意義務違反は、手術によって舌神経を損傷したことを前提に、損傷にミスがあったと主張するものであるが、そもそも損傷が認められていないのでミスがないと判断されることになる。

舌神経損傷に対する外科的神経修復術は、平成13年、14年当時、治療としての有効性についての評価は定まっておらず、総合病院や大学附属病院においても、ほとんど行われていなかったものであって、医療水準として未確立の治療法であったものと認められる。そうすると、平成13年、14年当時、被告病院の医師において、原告に対し、舌神経損傷に対する治療法として外科的神経修復術を手掛けている他の病院を紹介して、同手術を受けることを勧めたり、その検討を促したりすべき注意義務を追っていたとは認められない。

他の病院への紹介義務との関係では、「舌神経損傷に対する外科的神経修復術」が未確立の治療法であったことを前提に、同手術を受けることを勧めたりする義務はないと判断している。
手術の内容が医療水準、確立された治療法であれば、勧めたりする義務が肯定される場合もあると思われる。

上記引用部分2点はいずれも、注意義務違反を主張するうえで前提となる事実や医学的知見、つまりを舌神経損傷の有無や治療法の確立・不確立かどうかを認定し、それぞれ注意義務違反は認めなかった。

医療事件では、過失・注意義務違反の前提となる事実や医学的知見が争われることは多く存在し、前提部分で主張が認められなければ注意義務違反についても認められない。

ABOUT ME
平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟6件(高裁1件、地裁5件)、示談交渉中・調査中の事件は10件以上を担当しています。
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