定期健康診断と医療水準に関する最高裁反対意見
最高裁平成15年7月18日判決(労働判例862号92頁)
【概要】
定期健康診断において、読影医師が、肺がんの存在を見落とした過失が問題となった事案で、第一審・第二審はともに請求を認めなかった。
上告も認められなかったが、滝井繁男裁判官の反対意見がある。
【反対意見の内容】
「定期健康診断は、その目的が多数の者を対象にして異常の有無を確認するために行われるものであり、レントゲン写真の読影が大量のものを短期間に行われるものであるとしても、そのことによって医師に求められる注意義務の判断基準についての考え方が上記と異なるものではなく、当該医療機関が置かれている具体的な検査環境を前提として、合理的に期待される医療水準はどのようなものであるべきかという観点から決せられるべきものであって、平均的に行われているものによって一律に決せられるべきものではない。」
「定期健康診断における過失の有無も、一般的に臨床医間でどのように行われていたかではなく、当該医療機関において合理的に期待される医療水準に照らし、現実に行われた医療行為がそれに即したものであったかどうか、・・・実際に行われた検査がそれに即したものであったか否かを確定した上で判断されなければならないのである。」
「注意義務として医師に求められる規範としての医療水準は、それぞれの医療機関の給付能力への合理的期待によって定まるのであって、一般的に定められるべきものではなく、このことは、定期健康診断においても基本的に異なるものではないからである。」
「健康診断が、どのような水準のものとして実施することを予定されていたかを確定し、その水準をみたすものであったかどうかを審理判断すべきであったのに、一般臨床医の医療水準に照らして過失の有無を判断したのは、審理不尽の結果、法令の適用を誤ったものといわざるを得ず」
参考
東京高裁平成10年2月26日判決 労働判例732号14頁
東京地裁平成7年11月30日判決 労働判例687号27頁