医療事件

複数回受診しても適切な診断がされず転送もされなかった事案

kentaro

腹痛・嘔吐を主訴に2回受診した患者を急性胃炎と診断して帰宅させたが、他院にてイレウスと診断され死亡した場合に、最初に診察した病院の転送義務違反、後医の開腹手術実施義務の有無が争われた事案
(東京地裁平成26年2月26日、判タ1411号317頁)

【争点】

  1. A医師の転送義務違反の有無
  2. b病院の医師の注意義務違反の有無
  3. 因果関係の有無
  4. 損害の有無及び損害額

【判旨+メモ】

 Cは,自宅で腹痛を訴え,鎮痙薬等を服用するも,症状が改善せず,自制不可となったことから,未明,a医院に救急搬送されたこと,② A医師は,1回目の診察の際,触診により,Cの臍部に圧痛があり,その周囲に膨隆が出現しているのを確認し,鎮痙薬等を投与するなどしたこと,③ それにもかかわらず,症状は改善せず,Cは,1回目の診察後間もなく,2回目の診察を受けることになったこと,④ A医師は,2回目の診察の際(同日午前5時25分頃),ソセゴンを30mg投与して自宅に戻ったこと,⑤ Cは,ソセゴンの投与から2時間ほどして(同日午前7時30分頃),腹痛,嘔気等を訴え,A医師は,3回目の診察の際(同日午前9時20分頃),再度,ソセゴンを30mg投与したことは,前記認定のとおりである。
 かかる診療経過に加え,A医師自身,ソセゴンの投与後は,その奏効状況に注視する必要がある旨の供述(被告Y1病院代表者)をすることに照らすと,A医師は,鎮痙薬等の投与によりCの症状が改善せず,モルヒネに匹敵する鎮痛効果を有するソセゴンを通常の用量の2倍(30mg)投与するも,その効果持続時間(約3ないし4時間)内に症状が再燃するに至った時点で,軽度の急性胃炎との自らの暫定的な診断やこれに基づく治療が適切ではないこと,そして,Cにつき,絞扼性イレウス等を含む重大で緊急性のある疾患である可能性があることを認識し得たものといえ,そうである以上,A医師は,遅くとも2月1日午前7時30分頃時点で,Cを高度な医療機器による精密検査やこれに基づく治療が可能な高次の医療機関へ転送し,適切な診療を受けさせるべきであったといえる。

本件では、診察を重ねていたこと、治療効果が認められなかったことを踏まえ、暫定的診断が適切でなく別の重大疾患の可能性があると認識し得たことから、転送義務を認めている。
事実経過を丁寧に追いかけることが重要である。

 原告らは,b病院の医師は,2月1日午後11時20分頃時点において,Cを絞扼性イレウスあるいはその疑いがあると診断し,確定診断を待つことなく開腹手術の実施を決定し,これを実施すべきであった旨の主張をする。

(中略)

原告らの主張する所見やG医師の指摘を考慮しても,本件絞扼の発生時期も判然としない本件において(小腸の壊死部分の長さ,粘膜の壊死,腸管穿孔,腹膜炎の所見の有無等に照らすと,本件絞扼が同日午後11時20分頃以降に発生した可能性を一概には排除し得ない。),b病院の医師が,Cを単純性イレウスと診断し,保存的治療(絶飲食,輸液,経鼻胃管の留置による腸管内の減圧,抗菌薬の投与等)を行ったことをもって,注意義務違反とまでいうのは困難である。

前記のとおり、転送義務違反では「絞扼性イレウス等を含む重大で緊急性のある疾患である可能性があることを認識し得た」ことを理由に過失を認めている。

他方、、単純性イレウスと診断し(絞扼性イレウスとは診断せず)、保存的治療を行ったことは注意義務違反とまではいえないと判断している。

絞扼性イレウス等を疑って転送すべきというものの、後医で絞扼性イレウスと診断してなくても過失はないと判断されている。

この判断からすれば、因果関係は認められにくい考え方であり、実際に高度の蓋然性は認められていない。

そもそも,Cの死因を絞扼性イレウスとすること自体に疑問が残るのであって,医師が同日午前7時30分頃時点においてCを高次の医療機関へ転送していれば,転送先の医療機関において早期に開腹手術が実施され,Cの死亡が回避された高度の蓋然性があったとまでいうのは困難である。

(中略)

 本件絞扼が2月1日午後11時20分頃以降に発生した可能性を一概には排除し得ないことに照らすと,A医師が同日午前7時30分頃時点でを高次の医療機関へ転送していれば,より早期に保存的治療が開始され,当該治療の奏効状況に応じた適切な診断とそれに基づく治療が行われたものと考えられるのであって,これにより,Cの同月2日午前7時34分時点における死亡が回避された相当程度の可能性はあったというべきである。そして,イレウスに伴う嘔吐は腸管内の減圧により改善される(証人G)というのであるから,Cの死因が吐瀉物の誤嚥によるものであったとしても,上記の判断は左右されない。

仮に、後医で絞扼性イレウスとして治療がされていれば、時間的要素によって結論が変わった可能性は考えられる。

なお、本件では、相当程度の可能性は認められており、慰謝料も1000万円が認められ、相当程度の可能性における慰謝料としては、いくらか高いと言える。

ABOUT ME
平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟6件(高裁1件、地裁5件)、示談交渉中・調査中の事件は10件以上を担当しています。
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