終末期医療患者が亡くなった原因が争われた事案
末期の胃がんと診断を受け終末期医療を受けていた患者が死亡したのは、麻酔注射剤であるロヒプノール静注用2mgを投与によって引き起こされたのか、投与にあたってはモニター装着して継続観察して、異常検知したときは酸素吸入・人工呼吸器装着を行うべき義務があったのか等が争われた事案
(横浜地方裁判所令和6年5月16日判決、医療判例解説117号57頁)
【争点】
- 亡太郎が本件薬剤による重篤な呼吸抑制により死亡に至ったか
- 本件病院医師が本件薬剤を投与する際に亡太郎の呼吸・循環動態の継続観察を怠った過失の有無
- 本件薬剤の投与後の亡太郎の離床に際して、亡太郎の観察を怠った過失の有無
- 薬剤の副作用、ベッドモニターの必要性についての説明を怠った過失の有無
- 損害及びその額
【判旨+メモ】
亡太郎が既に末期のがんに罹患していたことからすれば、意識消失の原因が、がんに起因する胃がん病変部からの出血等に伴う播種性血管内凝固症候群、両側の胸水・腹水による呼吸不全・出血性ショック、心嚢水貯留による不整脈・心不全、心タンポナーデに伴う心原性ショック、肝転移病変や転移リンパ節からの腹腔内出血によるショック、神経調節性失神に伴う心肺機能障害等の可能性も考えられるのであるから、本件薬剤によるものということはできない。
(中略)
上記添付文書によれば、副作用としての呼吸障害の割合は、呼吸抑制0.6%、舌根沈下が0.7%にとどまり、その割合は高いとはいえず、また、上記文献の報告によって認められるSpO2の低下は翌朝覚醒するまでの状態であり、同文献によっても拮抗剤を投与した症例はなかったというのであるから、同文献によって、本件薬剤の副作用として重篤な呼吸抑制が生じる確率が33.3%であると直ちにいうことはできない。
(中略)
以上によれば、本件投与によって亡太郎に重篤な呼吸障害が生じ、そのために呼吸が停止し、心停止して死亡したことを認めるに足りない。
本件では、薬剤の投与と関係があることを前提に各過失が構成されている。
そして、薬剤投与が死亡と関係が問題とされるように、死因が争われる事案は非常に多い。
上記判示では、「心肺機能障害等の可能性も考えられる」として他原因の可能性が指摘されている他、本件薬剤の添付文書から副作用の発生率を統計的に検討し、本件薬剤が死亡の原因とは認めることはできないと判断されている。
患者側代理人としては、病院側から他原因の主張がなされた場合、その他原因は死亡理由として考えられないことを主張立証しなければならず、裁判で苦労する論点の一つである。
