医療過誤と医師免許の関係~法律的視点~

医療過誤事件を取り扱っているが、勝訴判決や損害賠償責任を伴う和解が成立した場合、それが医師免許に影響するのか。
医道審議会の議事要旨をみる限り、少なくともここ数年、医療過誤によって免許取消・医業停止・戒告になっている事例は基本的にないと思われる(すべての議事要旨を確認したわけではないため、過去に存在する可能性はある)。
医師は、どのような場合に医業停止等の処分を受けるのか、法律に規定がある。
医師法7条1項は次のとおり規定する。
第七条 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
そして、第4条とは次のような内容である。
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
医療過誤の関係で処分に影響するには、「罰金以上の刑に処せられた者」(4条3号)もしくは「品位を損するような行為」(7条1項柱書)に該当する必要がある。
一般的に医療過誤訴訟は民事事件であり、損害賠償請求事件である。
患者側が勝訴した場合に一定の金銭が支払われることになるが、これは「罰金」でも「刑」でもないため、上記「罰金以上の刑に処せられた者」には該当しない。
医療過誤事件で「罰金以上の刑に処せられた者」に当たるためには、刑事裁判で有罪判決が言い渡される必要がある。
(業務上過失致死傷等)
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
有罪判決までには、基本的には患者側から刑事告訴し、警察署から検察官にいわゆる送検され、検察官が起訴し、裁判官が有罪判決を言い渡す過程が必要になる。
現状、医療過誤事件において、このような経過を経る事案はほとんどない。
そうすると、「罰金以上の刑に処せられた者」に当たることがなく、行政処分の対象にならない。
なお、法律的には、医療過誤が「医師としての品位を損するような行為」に当たることも考えられるが、現実的にはないと考えている。
この点については、実際に医療過誤事件を扱っている経験から、また整理したいと思う。