【最高裁】入院患者への身体拘束について判断された事案
最高裁第三小法廷平成22年1月26日判決 判例タイムズ1317号109頁
【概要】
入院患者の身体抑制について、重大な障害を負う危険性、代替方法、必要最小限度といえるかについて認定判断され、危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であると判断された事案
【事実経過】
H15.6.20 両胸部痛
H15.7.16 トイレ内で転倒
H25.8.1 入院
H25.9.12 退院
H25.10.7 変形性脊椎症、腎不全、狭心症等と診断され入院
H25.10.22-11.5 夜間に大きな声やナースコール、せん妄の症状
H25.11.15 汚れていなくてもおむつ交換を求めるなどし、詰所に来て病室に連れて行くことを繰り返す
H25.11.16 同様の行動を繰り返す可能性高く、転倒の危険性もあり、個室に移動
個室移動後も訴え等は変わらず、抑制具ミトンでベッドの作にくくりつけた
眠った後、約2時間後には片方のミトンを外す。もう片方は明け方。
右手首皮下出血及び下唇擦過傷が認められた。
H25.11.21 退院
【判旨】
(転倒等危険性)
「本件抑制行為当時,せん妄の状態で興奮したAが,歩行中に転倒したりベッドから転落したりして骨折等の重大な傷害を負う危険性は極めて高かったというべきである。」
(代替方法)
「看護師がその後更に付き添うことでAの状態が好転したとは考え難い上,当時,当直の看護師3名で27名の入院患者に対応していたというのであるから,深夜,長時間にわたり,看護師のうち1名がAに付きっきりで対応することは困難であったと考えられる。そして,Aは腎不全の診断を受けており,薬効の強い向精神薬を服用させることは危険であると判断されたのであって,これらのことからすれば,本件抑制行為当時,他にAの転倒,転落の危険を防止する適切な代替方法はなかったというべきである。」
(拘束の程度)
「拘束時間は約2時間にすぎなかったというのであるから,本件抑制行為は,当時のAの状態等に照らし,その転倒,転落の危険を防止するため必要最小限度のものであったということができる。」
(結論)
「入院患者の身体を抑制することは,その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容されるべきものであるが,上記(1)によれば,本件抑制行為は,Aの療養看護に当たっていた看護師らが,転倒,転落によりAが重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であって,診療契約上の義務に違反するものではなく,不法行為法上違法であるということもできない。」
【メモ】
入院患者の身体抑制について、必要やむを得ない場合の基準に照らし、本件事実に基づき具体的に認定判断している。
高裁では、傷害を負う危険性が否定され、落ち着かせて入眠を待つという対応が不可能ではないとして違法と判断されている。
最高裁と高裁の判断方法を比較することで、事実の評価の参考になる判決である。
