医療事件

【最高裁】医療行為が著しく不適切な場合に期待件侵害を検討し得ると判断

kentaro

最高裁第二小法廷平成23年2月25日判決 判例タイムズ1344号 110頁

【概要】

下肢の骨接合術等の手術後に合併症として下肢深部静脈血栓症を発症し後遺症が残ったことについて、専門医への紹介義務等が争われたことに加え、その当時の医療水準にかなった適切かつ真摯な医療行為を受ける期待権を侵害されたと主張した事案

【事実経過】

S63.10.29 左脛骨高原骨折
S63.11.4 骨接合術・骨移植術
H1.1.15 退院
H1.8 ボルト抜釘のために再入院
H4.7.16 肋骨痛等を訴える、左足の腫れは訴えていない
H7.6.3 同上
H8.8.3 同上
H9.10.22 手術後、左足の腫れが続いていると訴えた。レントゲン検査等
      機能障害はないと判断し格別の措置は講じていない。
     ※この時点では既に適切な治療法はなく治療を施しても効果は期待できなかった。
H10.8.24 右足親指を打った(左足の腫れは訴えなし)
H12.2 診察
H13.1.4 診察
H13.4~10 他院受診し、左下肢深部静脈血栓症ないし左下肢静脈血栓後遺症と診断

【判旨】

高裁が「本件後遺症が残らなかった相当程度の可能性を侵害されたともいえないとしたものの、その当時の医療水準にかなった適切かつ真しな医療行為を受ける期待権が侵害された旨の被上告人の主張については、次のとおり判断して、被上告人の請求を慰謝料300万円の限度で認容した。」のに対し

「上告人Y2が、被上告人の左足の腫れ等の原因が深部静脈血栓症にあることを疑うには至らず、専門医に紹介するなどしなかったとしても、上告人Y2の上記医療行為が著しく不適切なものであったということができないことは明らかである。患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に、医師が、患者に対して、適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは、当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものであるところ、本件は、そのような事案とはいえない。」

【メモ】

期待権侵害について、「医療行為が著しく不適切」である事案で検討し得ると判断基準を示している。
「検討し得る」なので、著しく不適切だからといって、必ずしも期待権侵害が認められるとは限らないと思われる。
また、注意義務違反に加えて、「著しく」という程度問題が含まれるため、この点を主張立証するのは困難な印象がある。

患者側としては、注意義務違反と因果関係を主張し、因果関係が否定されるのであれば「相当程度の可能性」の議論をして、それでもだめな場合に期待権侵害を検討することになるから、基本的に期待権侵害を主張する場面はほとんどないと思われる。

ABOUT ME
平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟6件(高裁1件、地裁5件)、示談交渉中・調査中の事件は10件以上を担当しています。
記事URLをコピーしました