医療事件

穿刺針の抜去操作の過失が争われた事案

kentaro

採血検査を受けた際、臨床検査技師が、穿刺針の慎重な抜去操作を怠り、刺入した角度と異なる角度で抜針したため、右腕正中神経を損傷し、複合性局所疼痛症候群(CRPS)を発症させたとして、損害賠償を求めた事案
(名古屋高裁平成28年11月1日判決、医療判例解説68号45頁)

【争点】

控訴審では、本件検査で正中神経が損傷されたか否かが判断されている。

【判旨+メモ】

抜針時の神経損傷可能性について、以下のような理由を述べて、「本件検査において,抜針時に控訴人の正中神経が損傷された可能性は極めて低いと考えられる」と判断している。

C技師は,週に2,3回採血を行い,1日当たり30人から40人程度,1か月では320名程度の受診者に対し,採血を行っており,豊富な採血検査の経験を有していること,C技師は,採血用PSVを用いて控訴人に対する採血を行い,抜針時には,ウィングを指で押さえて固定していたことが認められる。そして,C技師が,抜針時に無理な力を加えたとは認められないし,控訴人が急に動いたなどの事実も認められない。

J医師は,人体を構成する皮膚や皮下組織,皮下脂肪,筋膜,筋組織などには弾性があるから,仮に穿刺の際の刺入時と抜針時とで針の通った径路が大きく異なっていたとしても,針を抜く過程で,針先のとがった部分が,刺入時には接触していなかった構造物に直接触れて損傷を加えることは考えられない旨を述べている。

患者の「本件検査において,C技師が採血針を抜いたと同時にプチンという大きな音がして,針を刺したところを中心に激痛が走った」といった供述については

また,控訴人は,本件検査の直後にC技師に対し,採血後(針を抜く時)の痛みとしびれを訴えた(乙A4)ものの,大丈夫だと思う旨述べて残りの心電図,胸部エコー,眼圧,聴力及び胃のレントゲン検査を全て受診していることからすると(上記(2)エ(ア)b),通常の採血検査で生じる痛みを大きく上回る激痛があったとは考え難く,本件検査の直後にH医師が診察した際の記録にも,控訴人が激痛を訴えた旨の記載はない(乙A3)。

と判示し、通常の採血検査の痛みとの比較、採血後の受診状況を踏まえて判断されている。

採血後に受診した医師の紹介状の記載について

「このように,H医師は,D医師の診察結果を踏まえて正中神経に針が接触した可能性に言及しているが,積極的に正中神経損傷の診断を下したとは認め難い。」

「本件検査の前月である平成24年10月には,ドライバーを回すことができなくなり,右肩から右手にかけてのしびれも訴えていたことなどの事実を知らされていなかったから,上記診断の正確性には疑問を差し挟む余地がある」

「しかし,E医師も,右手のしびれなど本件検査前からあった症状を把握していたわけではなく,採血後の正中神経障害である旨のD医師の診察がMMTの結果に矛盾しないことを確認したにすぎず,他の原因を排除するような積極的な判断をしたとは認められない。」

というように、患者側に有利な記載については、その記載に疑問を差し挟む余地があるといったり、他の原因を排除したとはいえないなどとして、否定されている。

本件では正中神経損傷が認められず、過失等も認められていない。

ABOUT ME
平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟6件(高裁1件、地裁5件)、示談交渉中・調査中の事件は10件以上を担当しています。
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