地裁で過失の審理が不十分であり控訴審で差し戻された事例
高等裁判所の判決では、通常、控訴を棄却するか、控訴に理由があると判断し地方裁判所での判決が変更されるかのどちらかですが、いずれでもなく地方裁判所に差し戻された事案があります。
(東京高裁令和7年1月30日判決、医療判例解説116号2頁)
原判決は、縫合の手技上の過失について、過失を特定するに足りる証拠がないことを理由に、これを認めなかったものと解されるが、控訴人は、被控訴人B医師らが太郎の縫合部分の組織の状態の確認を十分に行わなかったことや、縫合後にステープルの形成状況や定着状況についての確認を十分に行わなかった過失があるとして、当該過失を一応特定する主張を準備していたのであり、当該準備書面を陳述させていれば、過失を特定するに足りる主張を欠くとは直ちにいえなかったと認められる。そして、その場合、原審は、更にその過失の有無につき審理をしなければならなかったのに、そのような対応をとらないまま口頭弁論を終結して終局判決をし、その終局判決において「いかなる不適切な手技によって亡太郎の腹腔内出血が生じたかを特定するに足りる主張及び証拠は提出されていない。」とした原審の手続には、「訴訟が裁判をするのに熟したとき」(民事訴訟法243条1項)の判断を誤り、必要な審理を尽くさずに終局判決をした違法がある。
上記のように、過失について十分な審理を行わなかったとして差し戻されている。
原審では、以下のように判示されていた。
かかる主張・意見は、亡太郎に実施された解剖の結果、ステイプラー3列のうち1列が外れていたとの結果(中略)や本件手術後4日目に腹腔内出血が発生した事実をもって、被告医師らが適切な縫合措置を行わなかったとの手技上の過失があったとするものにすぎず、いかなる不適切な手技によって亡太郎の腹腔内出血が生じたかを特定するに足りる主張及び証拠は提出されていない。
実際の詳しい訴訟経過まではわからないが、地裁としては、この内容では過失が特定されていないと判断したのであろう。
結果から手技上の過失があるというのでは足りず、どのような手技をすべきだったのか特定する必要があることを指摘するという意味では注意すべきことだと思う。
