医療事件

医療訴訟・医療紛争の現状と課題 その6

kentaro

法律のひろば2023年3月号「医療訴訟・医療紛争の現場と課題」のうち、「医療紛争に関連する訴訟外制度」(五十嵐裕美弁護士)について

本論考では、①医療事故調査制度、②産科医療補償制度、③医薬品副作用被害救済制度、④医療ADRについて、その概要と医療紛争との関わりについて整理されています。

①医療事故調査制度と医療紛争の関わりについて、以下のように指摘されています。

事故調査における事実経過と事故原因を明らかにするという作業は、遺族側の真実を知りたいという欲求に答える機能を有しており、医療機関の患者側に対する説明責任を果たすことにもなる。

事故調査によって事実が明らかになり、医療機関がそれを真摯に受け止めたことで、法的には有責と考えられた事案でも遺族が損害賠償請求を望まず円満に解決した経験もある。他方で、要件としては事故調査対象と遺族側が考えるにもかかわらず、医療機関が頑なに事故調査を拒んだ事案では、経験上、ほぼ訴訟提起に至っている。

事故調査をしないことによって訴訟提起に至るという指摘は、まさにその通りだと思います。
事故調査をしない場合、病院側からの説明で納得できる可能性は低く、事実を知るためにも訴訟を選択せざるを得ない状況に追い込まれることもあります。
何が起きたのか、それに対する説明の重要さがわかります。

②産科医療補償制度と医療紛争の関わりについて、以下のように指摘されています。

医学的評価としては一般的とされても法的観点からは過失が認められる場合もあるであろう。医学的評価と法的な医療水準は必ずしも同じではないことに留意すべきである。

補償対象とされた事案については3000万円の補償金が支払われ、損害賠償金との併給はできないことから、現実的には3000万円を上回る損害賠償金が得られる事案でないと医療事故としての損害賠償請求は経済的には意味がないことに留意しなければならない。

原因分析報告書が証拠として提出され、その評価が争われることがあります。
医学的評価と法的評価が異なることを意識して、分析する必要があります。

法律のひろば2023年3月号「医療訴訟・医療紛争の現場と課題」について、一通り重要と思った点を整理しましたが、医療紛争を取り扱う上で重要なことがまとめられた論稿となっており、現在医療事件を扱っている人にもこれから医療事件を扱っている人にも一読をおすすめします。
また、法律解釈のことなど専門的な部分もありますが、患者ご本人やご家族の方が読んでも裁判のことなど気付きも多いと思います。

ABOUT ME
平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟8件を担当しています。
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