医療事件

予防的療法において求められる説明

kentaro

最高裁平成18年10月27日判決(医事法判例百選第3版、74頁)

無症状性の未破裂脳動脈瘤について、当時の医療水準上確立した選択肢として、保存的に経過を見るほか、開頭術やコイル塞栓術があった中、塞栓術の手技上の過失と説明義務違反の有無が争われた事案

判旨

「予防的な療法(術式)を実施するに当たって、医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には、その中のある療法(術式)を受けるという選択肢と共に、いずれの療法(術式)も受けずに保存的に経過を見るという選択肢も存在し、そのいずれを選択するかは、患者自身の生き方や生活の質にもかかわるものでもあるし、また、上記選択をするための時間的な余裕もあることから、患者がいずれの選択肢を選択するかにつき熟慮の上判断することができるように、医師は各療法(術式)の違いや経過観察も含めた各選択肢の利害得失について分かりやすく説明することが求められる。」
「説明義務違反の有無は、・・説明したか否か、・・の機会を与えたか否か、仮に機会を与えなかったとすれば、それを正当化する特段の事情が有るか否かによって判断される。」

本件は予防的治療の事案であったことから、判旨ではその点を意識して「時間的な余裕」「熟慮の上判断」を考慮しているが、緊急な対応が必要な事案では異なる判断基準になると考えられる。

また、判旨では、利害得失の説明にとどまらず、「分かりやすく説明」とあえて書いていることから、説明の事実だけでは、分かりにくいと実質的に選択の機会を与えられなかったという判断に繋がっていくものと考えられる。
それが、説明義務違反の有無の判断方法として、説明の有無だけではなく、機会の付与に言及している点と関連していると思われる。

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平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟8件を担当しています。
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