【転倒事案】常時見守る義務や離床センサー使用義務違反がないと判断された事案

東京地裁令和4年1月14日判決 出典ウエストロー・ジャパン
【概要】
転倒して左大腿骨頸部骨折の傷害を負い、運動障害等の後遺障害を負ったことについて、看護師らによる転倒転落防止措置義務違反があるとして損害賠償を請求したが、認められなかった事例
【判旨】
原告は、転倒転落防止措置の内容として、①ナースステーションから原告の行動を常時見守る義務、②ナースステーションに看護師が不在になる時間帯があるのであれば,その間に限り,原告を車椅子に移乗させる義務、③離床センサーを使用する義務、④より強力な身体拘束(上肢若しくは下肢の拘束)をする義務を主張していた。
①ナースステーションから原告の行動を常時見守る義務について
「被告病院の看護師らは,上記出来事以降,原告について,体幹ベルトによる身体拘束をしていたとしても,ベッドから転落したり転倒したりすることを予見できたといえる。」
「被告病院の看護師らにおいて,これらの措置にもかかわらず,原告がベッド柵を外してベッドから降りることまで予見するのは困難であったといえる。」
「かかる被告病院の看護体制が,法令等による基準を満たしていないと認めるに足りる証拠はない。そして,上記4名の看護師が,入院患者らの検温や血糖値測定,夕食の配膳等をする中で,原告に対し常時1名が付き添うとか,ナースステーションに常時1名を配置して見守りをすることは,極めて困難な状況であった。これらのことからすると,被告病院の看護師らが,常時ナースステーションに滞在して原告を見守る義務があったとまでは認められない。」
「したがって,原告を251号室へ移動させた上で4点柵を実施していた被告病院の看護師らの見守り体制が,原告に対する転倒転落防止措置として不十分であったとまではいえない。」
②原告を車椅子に移乗させる義務について
「9月7日の夜勤帯は,4名の看護師で約40人の入院患者に対応し,特に本件転倒が確認された同日午後6時頃は,検温や血糖値測定,夕食の配膳等の業務をする必要があったため,これらの業務を行いながら原告を車椅子に移乗させて常時見守ることは困難であった。」
③離床センサーを使用する義務について
「離床センサーについては,医学文献上,寝返りや体動が激しい場合に不向きであるとか,高齢者が動くたびにアラーム音が鳴り続けるため,認知症高齢者の場合,転倒リスクや症状悪化につながることもあるといった指摘がされている」
「これらの医学文献の内容及び原告の状態に照らすと,原告は,本件入院中において,離床センサーの使用に適した状態であったとはいえない。」
④より強力な身体拘束(上肢若しくは下肢の拘束)をする義務について
「そのため,原告の上肢又は下肢の拘束まで行うことについては,これを実施しなければ原告の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高かったとまではいえず,切迫性の要件を欠くほか,非代替性の要件も満たしていたとはいえない。」
【メモ】
予見可能性の点では、ベッドからの転落は予見できても、ベッド柵を外してベッドから降りることまで予見するのは困難と判断している。
具体的に何に対する予見可能性がなければならないのか、その判断が必要になる。
また、義務として設定した内容の現実的な実施可能性も考慮して判断している。
どこまでの転倒転落防止措置を求めることができるのか、実施可能性はあるのか、この視点も過失を構成する際に重要となる。