控訴審での和解意向聴取が問題になった事案
大阪高等裁判所令和5年5月25日判決(判例タイムズNo.1520)
医療訴訟の控訴審(一審患者側敗訴)において、従前の控訴人の和解しないとの意向は変わらないものと考え、改めて控訴人の意向を確認することなく和解の意向はない旨を回答し、大阪高裁から和解勧告はなく、控訴棄却(患者側敗訴)する判決が言い渡された事案
控訴人は、被控訴人が別件訴訟において控訴人の依頼した主張をしなかったことが委任契約上の義務違反に当たると主張する。
しかしながら、訴訟手続の委任を受けた弁護士は、依頼者が訴訟手続において主張するよう希望している事項をそのまま全て主張すべき義務を負っているとはいえない。すなわち、医療訴訟における訴訟代理人は、委任の目的を実現するため、法律の専門家の立場から、自らの裁量において、依頼者が主張するよう希望する事項を、争点との関係で意味があるかという観点から取捨選択し、かつ、法的に有意義なものに構成して主張することが求められているというべきである。控訴人と被控訴人との間で、控訴人及びBの希望する事項を全てそのまま主張する旨の合意がされていたとは認められず、控訴人の希望する内容の主張がなされなかったことについて、被控訴人に委任契約上の義務違反があるとは認められない。
弁護士として、依頼者の言い分は当然に聴取します。
医療訴訟において、依頼者が問題と思っている点が法律的にも過失・因果関係に関係する場合には主張することになります。
しかし、実際には、依頼者が思っている問題点が、法律上の過失と言うことはできず、示談交渉や裁判において主張しないことも多くあります。
私自身は、特に取り上げなかったのには当然理由が存在するので、その理由を依頼者に説明するよう心がけています。
弁護士に訴訟事件の代理を委任した事件当事者が、自身の抱える民事紛争をどのような形で解決するかは、当該訴訟事件の進展状況を踏まえて時々刻々と変化し得るところ・・・
患者が死亡した医療訴訟において、医療側の注意義務違反が認められない事案であっても、例えば、手術前の説明が必ずしも万全ではなかったことを遺憾とする旨の条項を定めるなど、金銭給付を伴わない和解により紛争が解決することがあり得るところである。
判決でも指摘するとおり、和解は紛争解決手段の一つであり、和解をすれば事件は終了になることから、重要な局面である。
裁判を始めるときも、どのように手続を進めて解決に向かうかについては、依頼者に繰り返し説明することが大切だと考えます。
和解では、金銭的解決が基本になると思いますが、判決でも指摘されているとおり、何らかの文言を入れることで解決する方法も選択肢の一つです。
もっとも、感覚的には、病院がミスを認めておらず、裁判所もミスがない前提の判断をしているとき、ミスがない以上は謝罪もないはずで、そのような状況で容易には和解に至らないと思われます。
控訴人に生じた損害としては、上記のとおり別件訴訟の控訴審の裁判所による、和解についての双方の最終的な意向を確認するという審理を受ける機会を失ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料に限られ、その金額としては10万円をもって相当と認める。