フェンタニル投与後厳重な観察を行う義務が争われた事例
東京地方裁判所 令和5年3月23日判決(出典Westlaw Japn)
下顎骨骨折に対する観血的骨接合術を受けた際、麻酔科医が、鎮静剤であるフェンタニル投与後厳重な観察を行う義務を怠った結果、心肺停止に陥って、高次脳機能障害を発症したとして、損害賠償を求めた事案
結論 請求棄却
争点
①被告病院の麻酔科医が、本件追加投与から少なくとも22分間本件患者について厳重な観察を行う義務に違反した過失の有無
②因果関係の有無
③損害の発生及び損害額
(原告が主張した注意義務の内容)
「被告病院の麻酔科医は、16時58分にフェンタニルを静注(本件追加投与)した後、少なくとも22分間は、継続的にパルスオキシメータを装着した上でバイタルサインの確認を行い、手術室又はそれに準ずる施設において、患者の容態急変時に即座に適切な対応を取ることができる体制を構築しておくべき注意義務」
(被告が主張した因果関係の反論(他原因の主張))
「原告主張の観察を行っていたとしても、予測が困難である突発性心室細動自体を防ぐことはできず、結局は同様の転帰をたどった可能性が高く、因果関係は否定される。」
(裁判所の判断)
過失に関する結論「他に原告が主張する追加投与後30分間厳重な観察をする注意義務が存することを認めるに足りる証拠はない。」
過失を認めなかったため、因果関係と損害については判断せず。
過失と被告病院作成の事故調査報告書の関係について
「発生した事象の解明と再発防止を目的とする本件調査報告書の提言は、医療安全のためにあり得る望ましい対策を提案するものにすぎず、法的な注意義務の存否を検討したものではないから、これをもって直ちに本件追加投与時の麻酔科医の注意義務の存在を裏付けることはできない。」
「直ちに」「裏付けることはできない」とあることから、調査報告書だけを根拠に注意義務の存在を裏付けると言うことはできないが、他の証拠と合わせて調査報告書も注意義務の存在を裏付ける根拠資料の一つになることまで否定した内容ではない。
裁判で調査報告書を利用することまで否定するものではない。
この点は、本件では原告から注意義務を裏付ける資料の一つとして提出されたようであるが、被告病院側の主張に沿う内容であれば、病院側からも証拠として提出されたり、その内容を病院側の主張の根拠にすることもある。