現代法律実務の諸問題<令和元年度研修版>(第一法規株式会社)から金地香枝裁判官の「裁判官の心証に焦点を合わせた訴訟活動」を読みました。
訴訟手続の中で裁判官がどこを見ているのか、何を考えているのかを知ることは大切だと考えています。
裁判において、原告と被告で対立する関係にあるとは思いますが、説得すべき相手はあくまで裁判官であって、裁判官の思考過程を知らなければ、効果的な裁判手続を行うことは難しいと思われます。
今回の講演内容は、どちらかというと裁判官はやっぱりそういう点を見ているのか、そういう意識を持っているのかと再確認できる点が多かった。
一人の裁判官が話をしているだけだと「本当か?」と疑ってしまう点もありますが、複数の裁判官が同じ認識を話しているのであれば、それは「本当」なんだと思います。
今後も裁判官の心証に合わせた訴訟活動を心がけたい。
以下、読みながら気になった箇所を箇条書きで残します。
- 問題のある訴状として、「事実関係が時系列に沿って記載はされているのですが、法律構成が不明確」「訴訟物はいちおう、特定されているものの、その選択が適切ではない」「特に、加害行為が何であるのかがよくわからないものは、結構目立つように思います。」
- 望ましい訴状として、「事実関係が複雑な非定型な事案におきましては、原告の主張をする事実関係、よく「ストーリー」といわれるものですが、ストーリーの概要が示されていて、当該事実関係にふさわしい明快な法律構成がされていることが望ましいです。」
- 「特に立証趣旨の記載に関しては、当該証拠を見ただけではどのような立証趣旨で提出されているのかがわからないようなものについては、これを明確に記載していただくことが必要です」
- 答弁書の認否について「特に事実の流れに関する認識に大きな隔たりがあるような場合には、認否としては、相手方の主張と異なる部分や争う部分などを端的に指摘していただく程度の簡潔な記載にしたうえで、被告の主張として、被告の認識する事実、要するに被告側のストーリーを記載していただく方が、読み手にとってはわかりやすいことが多いように思われます。」
- 「準備書面に関しても、主要事実と重要な間接事実についての認否は、明確に行っていただきたいと思います」「認否の必要がないということであえて認否をしない場合には、その旨を準備書面に記載しておいていただくと、当該部分を争わないとの誤解が生じることを避けることができると思います。」
- 書証等の引用について「きめ細かくそのつど引用してもらうと、非常にわかりやすいと思います。」
- 証拠の提出方法について「できる限り、重要箇所や引用箇所にはマーカーをつけるなどしてご提出していただきたい」「何分何秒の部分が特に大事である」ということを証拠説明書などで書いていただくと、よりわかりやすくなると思います。」、ページ数の多い書証は「最低限ページ数を付したうえで提出」、「せひとも原寸大でご提出いただきたいと思います」
- 「裁判所からみますと、証拠説明書の有するインデックス機能は、きわめて重要です。証拠のどの部分に、どの争点に関する、どのような証拠があるのかが一覧してわかるように、立証趣旨がわかりやすく記載されている証拠説明書は、代理人の方が考えていらっしゃる異常に、裁判所にとっては有益なものです。」
- 心証開示に対する当事者の対応について「当事者は、裁判所による心証開示を踏まえて、自らの主張の弱点、少なくとも裁判所がどの部分に問題があると考えているのかを知ることができますので、裁判所としては、その後の審理において主張・立証を補充したり、あるいは、和解による紛争解決の方向性を探るなどの対応を行っていただきたいと考えております。」
- 陳述書の成立の真正について「むしろ陳述書の記載内容について、「作成名義人であるご本人の認識と違っているところがありますか」と簡単に確認していただければ、それで十分なのではないかと思っております」
- 主尋問では「なぜそのような行動を取ったのかという理由などについても直接自分の言葉で語らせることによって、そのような行動を取ったことについての合理性を根拠づけて、当該供述に信用性があることを印象づけるといった工夫」
- 証拠調べ後の和解について「当事者双方に対して、全く方向性の異なる話をすることはありません。しかし、和解である以上は、双方の弱点に当たる部分をやや強調して、和解による解決を促すことはあります。」
- 裁判官の引継ぎについて「裁判官が、前任の裁判官の心証と同じ心証を必ず持つかというと、決してそうではありません」
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大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。
現在、訴訟8件を担当しています。