妊娠中の絞扼性イレウスに関する事案
妊娠中の絞扼性イレウスに対する診断義務違反等が問題となり、絞扼性イレウスと新生児仮死との因果関係も争われた事案
(東京地裁平成27年11月19日判決)
【争点】
- 本件病院の医師が絞扼性イレウスの診断を怠った注意義務違反の有無
- 本件病院の医師がより早期に帝王切開手術を実施しなかった注意義務違反の有無
- 本件病院の医師の分娩監視義務違反の有無
- 本件病院の医師の注意義務違反と原告X1の新生児仮死の発症との間の因果関係の有無
- 原告らの損害額
【判旨+メモ】
以上のとおり,原告X2について,絞扼性イレウスを直ちに疑わなければいけないような不自然な数値の異常がなかったこと,約1箇月半前に原告X2が同じ症状を訴えた際,薬剤の投与と経過観察で症状が回復したことがあり,今回も一時的に症状が軽快したことに加え,妊婦におけるイレウス(絞扼性イレウス以外のイレウスも含む。)の発生頻度は米国において2500~3500人に1人とそれほど高くないことが認められること(甲B4・910頁),C証人が「妊娠36週はもうかなり子宮が大きくなっておりますので,腹部レントゲンを撮りましても全体的に真っ白でガス像はほとんど写らない状態だと思います」と,腹部X線撮影検査の診断価値は乏しく,撮る必要はないと証言していること(C証人3頁)をも併せ考慮すると,本件病院の医師が,平成15年○月○日午後2時30分過ぎまでの間に,腹部単純X線撮影,超音波検査をせず,薬剤を投与して経過観察するとの選択をしたことも(なお,超音波検査については,C証人は,「行った」と証言している(C証人2頁)ものの,これを行ったことを認めるに足りる証拠はない。)それ自体不合理であるということはできず,本件病院の医師に原告らが主張するような注意義務違反は認められないというべきである。
客観的証拠である血液検査の数値や患者の症状、それに対する薬剤投与の経過を踏まえ、絞扼性イレウスを直ちに疑うべき状況ではなかったとして、医師の判断が不合理とはいえないとしている。
その他の過失についても本件では認められていない。
過失が認められていない以上、判決の中で因果関係の理由を説明することは必須ではないが、本件では、以下のとおり説明がされている。
ただ,念のために付言すると,原告らは,イレウスの病変部が胎児を圧迫したことで,原告X1が低酸素性虚血性脳症となり,新生児仮死になったという機序を主張するが,胎児は子宮内の羊水に浮いているところ,腸管は子宮の外にあり,子宮壁は腸よりはるかに硬いものであること(乙A6・4頁,C証人28頁)を踏まえると,イレウスの病変部が胎児を直接圧迫するということは通常考えられず,本件でそのような圧迫があったという証拠も存在しないのであるから,原告らの主張するようにイレウスの病変部が胎児を圧迫したことで,原告X1が低酸素性虚血性脳症となり,新生児仮死になったという機序は認められない。
また,本件分娩経過記録からしても,本件病院においては,原告X2の血圧を継続的に測定しているところ,収縮期血圧は130台から150台の高い状態を維持しており(乙A3・345頁),平成15年○月○日午後3時時点での酸素飽和度は97%で,異常はないと認められる状態であって(同339~340頁),原告X2の血圧循環は保たれていたと認められるから(C証人5~6頁),本件で原告X2が絞扼性イレウスになったことで,原告X2の循環状態や全身状態に異常を来し,それが胎児に影響を及ぼしたという機序であったことも認めることは困難である。
そうすると,結局,本件で,原告X2の絞扼性イレウスが原告X1の新生児仮死という後遺症の発生に影響を及ぼしたことを証拠上認めることはできないから,原告らの主張する本件病院の医師及び被告の注意義務違反と原告X1の後遺症の発生との間の因果関係を認めることはできないといわざるを得ず,原告らの主張はいずれにしても採用できない。
上記のとおり、過失の有無に関係なく、絞扼性イレウスと新生児仮死との間の因果関係は認められないと判断されている。
つまり、仮に過失が認められていたとしても、本件では因果関係が否定されていたと言える。
