死因について患者側が根拠とする司法解剖の鑑定書を採用せず、病院側の主張も採用しなかった事案
早期胃がん治療のためにアルゴンプラズマ凝固法(APC)による内視鏡的治療を受け、退院したが、その後に全身状態が悪化し死亡した事案
(大阪地裁判決令和7年6月24日判決(控訴中)、医療判例解説118号21頁)
【争点】
- 本件患者の死因・機序
- A医師の過失(本件患者の症状の評価・判断を誤って退院を許可した過失)
- A医師の過失(救急外来受診時における説明義務違反)
- 損害及びその金額
【判旨+メモ】
死因について争われており、本件では司法解剖が行われていた。
その司法解剖を担当した医師の鑑定書に記載された死因は、採用されていない。
なお、死体検案書においては、直接死因は「胃後壁穿孔を原因とする急性腹膜炎」と書かれている。
本件患者の司法解剖を担当したC医師は、鑑定書において、死因について、胃後壁小彎側の穿孔による急性腹膜炎に伴う敗血症が疑われるとの判断を示し、これと同旨の証言をした。
(中略)
C医師の上記見解は、以上のように本件患者の生前の症状、診療経過、検査数値等が、消化管穿孔(胃穿孔)やこれに起因する腹膜炎、敗血症の一般的な症状及びその経過等と乖離・矛盾があることを考慮することなく、その結論を導いている点で、その判断過程及び根拠に不十分な点があると言わざるを得ない。
などとして、司法解剖を担当した医師作成の鑑定書に基づく原告の主張は採用されなかった。
他方、被告が主張する死因についても採用されていない。
そのため、判決では、「以上によれば、本件患者の死因・機序は、本件全証拠によっても解明できたとはいえず、不明であるというほかない。」と判断している。
本件では、最終的に過失も否定されているが、原告・被告双方の主張する死因を採用せず、死因を不明と判断した点に特徴があると思われる。
また、司法解剖に基づく鑑定書が存在したとしても、それが直ちに信用されるものではないため、鑑定書が出ているからと安心もできないし、自身に不利な内容であっても尋問などやるべきことがあるとわかる。
