医療事件

医療事故の消滅時効起算点に関する判断

kentaro

大阪高裁平成17年9月13日 判例時報1917-51

【消滅時効に関する概要】

産科事案で消滅時効の起算点について、出生時や脳性麻痺の症状が明らかになった時期が事項の起算点になるのか、証拠保全やカルテを入手した時期が起算点になるのか争われた事案(旧民法の事案)

【判旨】

「民法724条の消滅時効の起算点である被害者又はその法定代理人が「損害及び加害者を知った時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当である(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10合1374頁参照)。」

「遅くとも平成6年7月7日までには、脳性麻痺と診断されているから、同日までには損害の発生を知ったものと認められる。」

「しかし、控訴人らが、被控訴人病院の措置の過失を疑い、その検討を始めたのは、平成7年9月22日になされた証拠保全により、被控訴人病院のカルテ等を入手してからである(カルテ等がない状態で、医療行為の適否を的確に判断することはできない。)。そうすると、被控訴人に対し損害賠償請求が可能であると知る に至った時期は、早くとも平成7年9月22日から相当な検討期間を経過した時と認められる。」

【メモ】

医療事故の結果は死亡や症状固定(後遺障害)によって確定し「損害」を知ることになるが、同時点が起算点ではなく、カルテ開示時期(証拠保全時期)から相当期間経過後を起算点としている。
弁護士も調査をしたうえで請求の可否を検討していることからすると、それに沿った判断である。
もっとも、消滅時効で争われないためにも、何か疑問があったら早めに相談を受ける方が、弁護士目線では助かる。

最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10合1374頁
「民法七二四条にいう「加害者ヲ知リタル時」とは、同条で時効の起算点に関する特則を設けた趣旨に鑑みれば、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知つた時を意味するものと解するのが相当であり、被害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者ヲ知リタル時」にあたるものというべきである。」

改正前民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

改正後
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条の2 
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

ABOUT ME
平井 健太郎
平井 健太郎
弁護士
大阪市で医療過誤事件(患者側)を中心に扱っています(全国対応)。 現在、訴訟6件(高裁1件、地裁5件)、示談交渉中・調査中の事件は10件以上を担当しています。
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