生活保護受給者からの差押えの全部取消しの申立が認められなかった
大阪地裁令和6年8月23日 判例タイムズ1529-188
【事案の概要】
元妻が、元夫に対し、養育費・婚姻費用債権に基づき給与債権を差し押さえたところ、元夫が生活保護利用中であることを理由に民事執行法153条1項に基づき差押えの全部取消しを求めたが、差押禁止債権の範囲変更の限度で認められた。
【判旨】
「申立人の勤務先から支払われる給与等は、生活保護費と合わせて最低限の生活を営むのに必要なものであり、実質的に生活保護費に相当するものということができる。そうすると、このような給与等に係る債権を差し押さえる旨の差押命令は、特段の事情のない限り、民事執行法153条1項によりすべて取り消されるべきである。」
「ある程度嗜好品や娯楽を控えることによって、継続的に養育費の支払に充てる金額を捻出することは十分可能と認められる。」
「差押禁止債権の範囲変更の判断に当たっては、債務者(義務者)の誠実性等も考慮されるべきところ・・・申立人にはすべての請求債権との関係で不誠実性が認められ、権利者である相手方が養育費の支払について抱いている期待は保護に値するものといえる。」
「本件においては、上記3で判示した「特段の事情」はあり、生活保護のことを理由に差押えをすべて取り消すことは相当でない。とはいえ、申立人は生活保護法による扶助を受けていることを踏まえると、本件差押命令に係る差押え(差押禁止債権の範囲2分の1)をすべて維持することはできず、前記認定の申立人の生活状況、相手方の収入状況等を踏まえると、差押禁止債権の範囲を5分の4に変更する(差押可能部分である5分の1を超える差押部分を取り消す)のが相当である。」
【メモ】
生活保護利用者に対する差押えについて、給与収入があったとしても、原則は差押命令がすべて取り消される。
本件は、「特段の事情」を認めた判断として、考慮した事情が参考になる。